可夢偉もファンも、スタートがすべてだと、分かっていた。
赤いシグナルが消えた午後3時3分27秒、スタートが切られた。
可夢偉は今年、スタートに苦しんでいた。8月31日の第12戦ベルギーGPでは、2番手スタートだったのに、出だしに遅れ、後続車の事故に巻き込まれて13位で終えた。
今回は大成功だった。2番手スタートのマーク・ウェーバーをとらえ、2番手で1コーナーに入った。
しかも、今季ポイントリーダーのフェルナンド・アロンソがリタイア。追っ手が減った。
鈴鹿は奇数列が有利と言われたのが、今回も表れた格好だ。
序盤、完璧な走りだった。
1分39秒台で走れたのは、可夢偉と、2年連続チャンピオンのセバスチャンだけ。
後続を引き離しにかかる。
事態を動かしたのは、タイヤ交換だった。
F1では一つのレースで、柔らかいタイヤと硬いタイヤの2種類を、必ず使わなければならない。
上位勢は柔らかいタイヤでスタートした。
硬いタイヤに交換すると、一般的にタイムが落ちる。
しかし、ガソリンが減って、どの程度の影響があるのかは、車の特性によって異なってくる。
そこを、レース巧者のフェラーリが見せた。
14周した可夢偉が交換した後、フェリペ・マッサは39秒台を連発。17周を終えて交換したら、可夢偉の前に出ていた。
その後の可夢偉は、元チャンピオンのジェンソン・バトンとの攻防を展開。国際映像を釘付けにした。
可夢偉が2度目のタイヤ交換をしたのは、31周を終えた時。ジェンソンは35周を終えた時だ。
マクラーレンには珍しく、ジェンソンのタイヤ交換でミス。右リアの交換を終えていないのに、ジャッキを下ろしてしまった。
コースに戻り、二人のタイム差は1秒ちょっとまで接近。
空気抵抗を低減して、スピードを増すDRSの使用可能なメーンストレートは、それまでの走りから、追い抜きが困難なことが分かっていた。
可夢偉が言うように、鈴鹿でメーンストレート以外に抜きどころはなく、ジェンソンにとっては、相手のミスに乗じるのが、安全で確実な方法だった。
可夢偉は、ミスをしないことでしか、乗り切れない状況だった。
可夢偉もジェンソンも、ゴールまで接近戦を演じ続け、そのままゴール。
今季のチャンピオン争いに加わるジェンソンにとって、危険を冒してまで前にでる選択肢はなかったのかも知れない。
しかし、互いに譲らぬ最後の5周は、今年、最もスリルのある時間だった。
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